「流動性の罠」再訪〜もっと簡単に解説〜

昨日、書いた内容が一部の方に分かってもらえていないようなので、もっと簡単に説明します。

[お断り]
当blogでの意見はすべて矢野個人のものであり、矢野が属するいかなる組織・団体とも関係ありません。

[「流動性の罠」再訪〜もっと簡単に解説〜]
id:ryozo18さんが訳したのはクルーグマンblogの以下のエントリー

結論はこうだ。もし短期金利がゼロになると、現金は短期債務の完全な代替物になる。そしてマネーサプライをいかに増やそうとも、債務もまったく同じだけ増加することで、すべての効果は打ち消される。まる。以上。

確かに中央銀行は別の政策もできる。たとえば(1)長期債券や(2)リスクのある資産を買ったりね。そしてこの対策は効果を持つ。でも、それは中央銀行が民間セクターのリスクを肩代わりしてあげることによるものだ。マネーサプライの増加とは本質的に一切無関係だ。
クルーグマンの結論 - I 慣性という名の惰性 I」
http://d.hatena.ne.jp/ryozo18/20090304/1236149536

上の文章にわざと番号(1)と(2)をつけました(⇒「(1)長期債券や」と「(2)リスクのある資産を買ったり」)。

短期名目金利がゼロ金利制約に引っ掛かり(つまり短期名目金利がほぼゼロになると)、短期国債とマネーの区別がつかなくなって、「もし短期金利がゼロになると、現金は短期債務の完全な代替物になる。そしてマネーサプライをいかに増やそうとも、債務もまったく同じだけ増加することで、すべての効果は打ち消される」状態=「流動性の罠(←これは用語の定義)です。

逆に言うと「流動性の罠にはまった」というのは「短期金利がゼロになってしまって、現在のマネーをどんなに増やしても効果がなくなってしまった状態」のことです。

で、「こんな流動性の罠なんていう状態になっちゃって困ったね。どうしようか???」というのが1998年のクルーグマン論文の議論の出発点です(←ここ重要!テストに出すよ!!!)

そして、解決方法は「インフレ期待を生み出して、実質金利をマイナスにする」なのですが、問題は「どのようにしたらインフレ期待を生み出せるか?」です。

その方法についてすでに三つの方法が提案されています。

  1. 中央銀行インフレターゲットを設定して、長期国債を買いまくる(岩田規久男先生などの提唱するアプローチ)
  2. 中央銀行のバランスシートを意識的に毀損する(スヴェンソン先生や深尾光洋先生が提案し、バーナンキ議長が現在行っているアプローチ)
  3. 財政政策を用いる

「1.長期国債を買いまくる」が「(1)長期債券(を買ったり)」のことで、「2.バランスシートを意識的に毀損する」が「(2)リスクのある資産を買ったり」のことです。

そしてクルーグマンは「そしてこの対策は効果を持つ。」と書いています。クルーグマンは心変わりなんかしてません。「1.長期国債を買いまくる」も「2.バランスシートを意識的に毀損する」も効果があるとちゃんと言っています。

3.の「財政政策を用いる」は「復活だぁっ! 日本の不況と流動性トラップの逆襲」ですでに提案されています。

Appendix C: インフレ期待を作るには
仮に、日本がマイナスの実質金利を長期にわたって維持する必要があるけれど、でも純粋なブートストラップ政策――つまりインフレ目標の発表が、いずれインフレを引き起こす拡大を生み出すような政策――が実現不可能だと考えたとしよう。もしそうなら、日本は経済を動かして、金融政策がとっかかりを持てるようなポジションに移行させるような、一時的な政策を適用して、そのとっかかりを利用してインフレを維持するということだ。この場合、一時的な財政刺激がもう一度出てくる。この戦略は、次のような流れになるだろう:大規模な財政拡大が金利ゼロのままで適用されて、そしてその財政拡大は経済がインフレ気味になってもまだ続く。理想的には財政刺激はだんだん縮小していくことになる。ただし、インフレ期待が上がる分を帳消しにしない程度に。大事なことは、完全雇用実現までだけでなくインフレが必要な水準に達するまで、金融政策はこれに対応したものでなくてはいけないということだ。
「復活だぁっ! 日本の不況と流動性トラップの逆襲」
http://cruel.org/krugman/krugback.pdf

で、これでもまだ「クルーグマンは心変わりした」と思いますか?

・・・これだけ分かりやすく書いて理解できなかったら・・・・

絶望した!

読解力の無さに絶望した!!!
by 絶望先生