クルーグマン「インフレターゲットのススメ」(資料編)

[お断り]当blogに書かれた内容はすべて矢野個人の意見であり、矢野が所属するいかなる組織とも関係ありません。

先日のエントリーの資料編です。

[A whiff of inflationary grapeshot]
「資料編」としてクルーグマン先生がblogに書いた「インフレターゲットのススメ」とも呼ぶべき記事“A whiff of inflationary grapeshot”の訳と関連情報のリンクも作ってみました。

A whiff of inflationary grapeshot (ポール クルーグマン)

グレッグ・マンキューが、今回の金融危機への対処として「これからの10年間、確実にインフレを維持するとFRBが確約する(矢野注:インフレターゲット政策のこと)」ことを提案している。素晴らしいアイディアなので、私も少し考えみればよかった。うーむ、でも、ちょっと待てよ・・・

実際のところ、グレッグは私が10年以上前に到達した結論同じものに到達した(矢野注:インフレターゲット政策のこと)という訳だ。そのとき私は当時の日本が直面していて、現在は我々も直面している問題のモデル化に挑戦していた。その時に私が指摘したことに戻るが、流動性の罠の本質は「名目金利がゼロになった時でさえも実質金利が高すぎる」ことにある。つまり理論的に“正しい”答えは、もし可能であれば、期待インフレを作りだして、実質金利を引き下げることだ。

誤解を恐れずに思い切った表現を使うと、中央銀行は“無責任になる”ことを“(人々に)信頼されるように公約”しないといけないのだ。

私が始めてこの分析をした時、とても乱暴で狂ったことのように扱われたが、この提案はとても教科書的な理論モデルから素直に出てくるものだ。日本はこの提案を受け入れてインフレにすることを拒否し、自らその罪に苦しんだようだ。私は、アメリカへの似たような提案が、(日本で受けたのと)同じ反応を受けるのではないかと懸念している。

追記:私の最初の論文が、インフレ期待を作り出すというテーマに関して非常に発展した論文につながったことを付け加えておきたい。たとえば、この論文の参考文献を参照のこと*1

再び追記:うわぁ、間違ったトーンで理解されたみたいだ。私は個人的に称賛されたいわけじゃないんだ。そう受け取られてもしょうがなかったかな。まあ、キーボードをたたく前にちょっと考えた方が良かったかもね(←矢野注:ここ分からない(himaginaryさんのエントリーによればマンキューとのやり取りだそうです))。

とにかく、みんな日本の経験を直視すべきだし、そこから分かった政策の選択肢についての広範囲にわたる議論が行われたことがあるというのは指摘しておきたい。この課題について誰も考えたことがないって訳じゃないんだ。実際、みんなラース・スヴェンソンの仕事に着目すべきだよ。どのようにしたらインフレを起こすという約束が信頼されるかという問題について彼よりも真剣に考えた人はいないからね。
(引用元は http://krugman.blogs.nytimes.com/2008/12/17/a-whiff-of-inflationary-grapeshot/ )

クルーグマン先生の提案のポイントは「インフレターゲットを採用することによって期待インフレを作りだして、実質金利を引き下げる」ことによって景気回復を促す点にあるのですが、如何にして期待インフレを作りだすのかは確かに重要な課題だろうと思います。それに関してはすでに多くの提案がありますので、リンク先の参考文献を参照されるといいかと思います。

[参考サイト/お役立ちリンク集]
大恐慌を防ぐにはインフレ政策しかない――ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授
http://www.toyokeizai.net/business/international/detail/AC/829d806c1f49099efa0cc0578e4619f5/

コント:ポール君とグレッグ君(himaginaryの日記)
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20090101/paul_and_greg

マンキュー:リフレ政策(or 物価水準目標政策)のすすめ(hicksianの経済学学習帳)
http://d.hatena.ne.jp/Hicksian/20081218

ルーカス、FOMCの決定について語る(hicksianの経済学学習帳)
http://d.hatena.ne.jp/Hicksian/20081224#p1

クルーグマン流動性の罠のなかでの最適財政政策 (P.E.S.)
http://d.hatena.ne.jp/okemos/20090101/1230777556

クルーグマンとマンキュー:経済学者のランキング (P.E.S. )
http://d.hatena.ne.jp/okemos/20081128/1227841909

経済学者は何を提言しているか 一例(徒然なる数学な日々)
http://mathdays.blog67.fc2.com/blog-entry-930.html

経済論戦 --財政か金融か--(徒然なる数学な日々)
http://mathdays.blog67.fc2.com/blog-entry-934.html
ちなみに矢野のお勧めは「コント:ポール君とグレッグ君」ですw

*1:クルーグマン先生の原文ではJeanne and SvenssonのNBERでの論文にリンクが張ってありましたが、一般の方はNBERにはアクセスできないと思うので、スヴェンソン先生のサイトにある論文にリンクをしておきました(NBERの論文も確認しましたが、同じものです)。