原油価格高騰(コストプッシュ型インフレ)についてヘリコプター・ベンが一言

ふすさんのご質問
リフレ派のかたがたは、昨今のコストプッシュ型のCPI上昇については
良いものとして考えられるんでしょうか?
(2次的な影響から、インフレ期待も上昇させると言われていますが・・・)

ふすさんのご質問は昨今の原油価格高騰などの影響による「コストプッシュ型のインフレ」(これは、要は原油価格高騰の影響を受けて、ガソリン価格や食品の価格など様々な商品の値段が上がっていることですね)について「リフレ派はどう思っているか?」ということだと思います。

それに関してはすでに非常に明確な答えがあります。ベン・バーナンキ「リフレと金融政策」(高橋洋一訳・日本経済新聞社)に

(1970年代に石油価格が上昇したのに対応して、当時のFRBが金融引き締めを行ったことを批判した上で)
今日では石油価格の上昇は、金融政策の引き締めではなく、一段の金融緩和政策の検討を促す可能性の方が大きいのです。
インフレ目標の展望』ベン・バーナンキ「リフレと金融政策」(高橋洋一訳・日本経済新聞社)のpp. 42-43)

理由は非常に簡単で、家計の収入が一定(つまり給料が上昇しない状態)の時に、コストプッシュ型インフレ*1が発生すると、家計が圧迫され(なぜなら給料が上昇しないので)、その他の商品の買い控えが起こり、それは最終的にはデフレ要因になるからですね。

原油価格上昇を受けた物価上昇に対して、FRBは利上げをすべきだ」というような話を最近耳にしますが、少なくともリフレ派はそういう意見には反対する人が多いと思います(リフレ派のblogでこの話題はすでに扱われているので、時間があったらリストを作りたいと思いますが・・・)。

その他にもインフレターゲット政策やリフレ派についての誤解は少なくないのが現状で、矢野が気がついた範囲内でも以下のようなものがあります:

リフレ派に関するよくある誤解リスト
インフレターゲット政策(以下、インタゲ政策)では目標インフレ率の宣言が必須である
バーナンキは明確に「それは誤解だ」と書いています)

インタゲ政策ではインフレ率だけが重要で雇用や景気は関係ない
バーナンキは逆に「雇用や景気への配慮をしないインタゲ政策は正しいインタゲ政策ではない」と書いています)

インタゲ政策では原油価格高騰でインフレ率が上昇すると利上げをすべきだ
(すでに上に述べたとおり)

バーナンキは「困ったらいつでもヘリコプターでお金をばらまけばいい」と言ったことがある
(そんなことは言ってません)

リフレ派は「インフレ率さえ設定すれば、自由自在にインフレ率を操作できる」と思っている
バーナンキは「そんなことはできない」と明確に言っている)

リフレ派は金融危機には対処しなくてもいいと思っている
バーナンキは「金融危機への対処に反対するインタゲ論者なんて見たことない」とは書いている)

リフレ派は財政政策は無意味だと言っている
バーナンキは「(アメリカにおいても日本においても)金融政策と財政政策の協調が重要」だと何度も主張している。)

リフレ派は構造改革に反対である
バーナンキは「(特に日本において)大きな構造改革を実行することが必要」だと述べている。これは実はクルーグマンも同じ)

かつてバーナンキは「インフレ目標を設定しない日銀は馬鹿」と言ったことがある
(これはちょっと意外な感じがするかもしれませんが)

これらの答えはすべてベン・バーナンキ「リフレと金融政策」(高橋洋一訳・日本経済新聞社)に書いてありますので、多くの皆さんが読んで、「リフレ派に対する誤解を解いていただければいいのに」と矢野はよく思います。

リフレと金融政策

リフレと金融政策

*1:原油価格が上昇+原油価格の影響を受けた一部商品価格の上昇[念のための注釈]