【社会人の新常識】クルーグマン「インフレターゲットのススメ」(入門編)

[お断り]当blogに書いてある内容はすべて矢野個人の意見であり、矢野が所属するいかなる組織とも関係ありません。

[社会人の新常識]
リフレ政策とはインフレーションターゲット[インフレ目標]を採用して、GDPデフレーターで年率約2%から3%程度のマイルドなインフレを実現しようという政策のことです。

残念ながら日本ではまったく理解者がいないというのが現状なのですが、世界ではすでに標準的な経済政策です。

特にその政策は多くの人々の生活にとって重要な全般的な物価を安定させるということが目的なのですが、それ以外にも現在のような金融危機や急速な景気後退の時にも経済を安定化させるのに役立つことが知られています(もちろん「世の中のすべての問題を解決できる」訳ではありません。あくまでも基本は「全般的な物価を安定させるための政策」です)

先日ノーベル経済学賞を受賞したクルーグマン教授のインタビュー記事がYOMIURI ONLINEに掲載されたので、【社会人の新常識】インフレターゲット」を少し復習してみたいと思います。

[予習エントリー]
まず、クルーグマン以外の世界的マクロ経済学者の意見をご覧ください。
マンキュー教授(ハーバード大学)「リフレ政策のススメ」

ロゴフ教授(ハーバード大学)「人為的インフレのススメ」

ルーカス教授(シカゴ大学、1995年ノーベル経済学賞)「FOMCの決定について語る」

インフレターゲット政策もしくはリフレ政策は極めて有力な意見であることが分かります。

[クルーグマン教授「インフレターゲットのススメ」]
次にクルーグマン教授のインタビューを一部引用させていただきます(全文はYOMIURI ONLINEをご参照ください)

 ◆ゼロ金利政策を支持する◆

 一方、バーナンキ議長の率いる米連邦準備制度理事会FRB)は、慣例にとらわれない融資や資産買い取りを進め、08年12月にはゼロ金利政策に踏み切った。私はこれを支持するし、FRBは現実を正しく認識していると思う。

 つまり、米国は1998年当時の日本と同じ状況、金利を上下させる通常の金融政策が効かない「流動性の罠(わな)」に陥っているのだ。

 私は98年、日本銀行に対して、政策目標とする物価上昇率を示す「インフレ目標」政策を採用すべきだと指摘したが、この議論も再び活発になってきた。

 達成できると、国民に信じてもらうのは難しいが、現在の米国で実際に効果を発揮させるには「向こう10年間、物価を年4%ずつ上昇させる」くらいのインフレ目標が必要だ。
規制なき市場経済ない…ノーベル賞クルーグマン教授語る(YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20090103-OYT1T00071.htm

いずれにしても「クルーグマンインフレターゲット政策が間違っていたと認めた」などという事実はないと分かっていただけるかと思います。

それどころか今でも強力にインフレターゲット政策を推進しています(最近はそれに財政政策も併用するように強く提唱しています[この点は1998年から変わりません])。

[インフレターゲット政策もしくはリフレ政策入門]
興味がわいてきた方がおられたら以下の三つのサイトを勉強されると良いと思います。
インフレ目標政策伊藤隆敏
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~tito/20071218lecture.pdf

インフレ目標政策への批判に答える(高橋洋一)REITI
http://www.rieti.go.jp/jp/special/policy_discussion/07.html

余は如何にして利富禮主義者となりし乎(bewaad
http://bewaad.com/archives/themebased/reflationfaq.html

[教科書]
インフレターゲット政策というのは、多くの方には非常に奇妙に聞こえるかもしれませんが、現在標準的なマクロ経済学(=動学的確率的一般均衡)で真剣に論じられている政策です。たとえば以下の教科書の第5章(“Monetary Policy Tradeoffs: Discretion versus Commitment”)をご参照ください。

Monetary Policy, Inflation, and the Business Cycle: An Introduction to the New Keynesian Framework

Monetary Policy, Inflation, and the Business Cycle: An Introduction to the New Keynesian Framework

ところで上記の教科書の著者Jordi Gali先生は世界的にも最先端のマクロ経済学者ですが、先日、研究会で日本に来ていたので矢野も会ってきました。Gali以外にも矢野がお勧めするマクロ経済学教科書を書いたFabio Canovaが来ていて非常に感激しました(Canovaには本にサインをしてもらいました。Galiの本を持っていくのを忘れてしまったのが大失敗でした)。

その研究会には日本の有力若手マクロ経済学者も多く参加しておられたので非常に勉強になりました。

[動学的確率的一般均衡の概要に興味のある方は]
矢野浩一「DYNARE による動学的確率的一般均衡シミュレーション〜新ケインズ派マクロ経済モデルへの応用〜」の「1.はじめに」が役に立つと思います(基本的にはプロ向けの論文ですが)。
http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis210/e_dis203.html

[追記]
伊藤隆敏先生の「インフレ目標政策」という講義ノートを見つけたので追記しました。