政策に進出するDynamic General Equilibrium

さて、Mankiw先生(ハーバード大学教授)が書いた"The Macroeconomist as Scientist and Engineer"を日本語に訳するというSvnseedsさんの偉業が達成されたので、感謝を述べ、少しコメントさせていただければと思います。

[Svnseedsさんの労作]
科学者とエンジニアとしてのマクロ経済学者(10・完)
http://d.hatena.ne.jp/svnseeds/20060722#p1

Svnseedsさん、ありがとうございました。非常に勉強になりました。

[現実の政策に進出するDynamic General Equilibrium]
さて、内容に関するコメントですが、Mankiw先生が言われるとおり「政策を実行する場面で(IS-LMをはじめとする「どマクロ」と比較して)Dynamic General Equilibrium Models(以下、DGE)が使用される頻度は極めて少ない」というのは事実だと思います。

ただし、DGEを推進する研究者もただ手をこまねいてみている訳ではないと思います。少しずつですがDGEを現実の政策の実行に役立てようという試みはなされています。

矢野が知っている例はFRB(アメリカの中央銀行)とBOE(英国の中央銀行)の二つしかありませんが、ちゃんと調べれば他にも見つかるはずです。

FRBでの試み(2005):
SIGMA: A New Open Economy Model for Policy Analysis
http://www.ijcb.org/journal/ijcb06q1a1.htm (PDFで論文全文を読めます)

BOEでの試み(2005):
The Bank of England Quarterly Model
http://www.bankofengland.co.uk/publications/other/beqm/index.htm

これらの研究はまだ始まったばかりで極めて不完全なものだと矢野は思いますが、それでも科学者とエンジニアの対立を解消しようとする一つの試みではあると思います。

(補足:DGEを勉強する人に)BOEのモデルを解説した以下のPDFファイルは「DGEとは何か」を説明した概説書にもなっていて矢野自身もいろいろ学ぶことがありました。
http://www.bankofengland.co.uk/publications/other/beqm/beqmfull.pdf
↑ファイルサイズが大きいので注意!

[じゃあ、お前は何をしている]
誰も興味を持っていないと思いますが、DGEを政策に用いようとするFRBBOEでの試みについて矢野がどう思っているか述べます。

実は矢野自身はFRBBOEでやっているようなDGEモデル(Christiano, Eichenbaum, and Evans (2005)などのNew Keynesian Sticky Price Modelsをベースとしたモデル)を研究することを止めてしまいました(1年半ほど前のことです)。

理由ですか?正直、説明に困るんですが・・・

「あっちは真実じゃないから行ってはいけない」。そうささやくのよ。私のゴーストが*1

*1:アニメ「攻殻機動隊」の主人公草薙素子「少佐」のセリフ