労働者を守るものは誰か〜ミルトン・フリードマン死去〜

正直に言ってミルトン・フリードマン先生には深い思い入れはありません。何しろ経済学の勉強を始めたのはほんの5年ほど前で、今も「経済学って最適化問題の単なる応用だろ?」としか思っていない輩ですから*1

しかし、それでも学生時代*2に読んだフリードマン夫妻の「選択の自由」という著書は非常に内容豊富で面白かったです。フリードマン死去に伴って、この本で論じられた「1930年代大恐慌の分析」、「マネタリズム」、「小さな政府」、「教育バウチャー制度」、「負の所得税」などについては他の多くの方が論じられると思うので、矢野はちょっとマイナーな点を取り上げます。

フリードマン夫妻は「選択の自由」の中で、労働組合最低賃金の保証は必ずしも労働者の保護には有効でないと論じた後、以下のように述べています。

大半の労働者*3にとってもっとも頼りになる有効な保護者は、多数の雇用者*4が存在しているという状況そのものだ。(中略)雇用者が労働者を守ってくれる場合があるとすれば、それはその労働者を雇いたいという意欲をもっている雇用者が複数いる場合だ。(中略)もし、ある雇用者が十分な賃金を払わないならば、他の雇用者が喜んで払うといいだすだろう。つまりその労働者が提供するサービスを手に入れようと、数多くの雇用者たちが競争することが、労働者にとってのほんとうの保護になる。

ミルトン・フリードマン&ローズ・フリードマン「選択の自由」日経ビジネス人文庫、第8章 ASIN:4532191300

矢野が始めて就職活動をしたのは1995年で、当時25歳でした。当時は(80年代バブル経済崩壊後としては)比較的景気がよくて、就職もそれなりに悪くなかったのです。しかし、1997年から1998年にかけて景気が悪化し、矢野の後輩達はかなり苦労したと聞いています。そして、2000年頃のITバブルを経験し、その後の景気後退、そして近年の(長いけれども小幅な)景気回復を経験しましたから、今では実感を持って「フリードマンが正しい」と思うことができます。

つまり景気が良い時のほうが「労働者を雇いたいという意欲をもっている雇用者の数」が多いわけで、結局は「好景気こそが労働者を守る」と言えるのではないかと今は思っているわけです*5

これをきっかけに「選択の自由」を読んだことのない人は、一度読んでみてはどうでしょうか?ただし、批判的な視点も忘れない方がいいかもしれません*6
[関連リンク]
Hmmmさんのまとめ
http://d.hatena.ne.jp/hmmm/20061117/p1

*1:経済学徒の皆さんジョークですよ!

*2:15年ほど前になると思います。

*3:「労働者」となっているが、サラリーマンなどの被雇用者全般を含んでいる[矢野注]

*4:労働者を雇う側を意味する[矢野注]

*5:ただしフリードマンとは少し違い、「労働組合がぜんぜんダメ」と思っているわけではありません。

*6:少なくとも矢野はフリードマンに全面的に賛成というわけではありません。好きなのはフリードマンよりクルーグマン