2009年度夏休みの課題図書リスト

いろいろとご意見をいただいた「夏休みの課題図書」リストをblogにも掲載します。

[課題図書の選定について(再掲)]
今年の課題図書は、皆様からのご意見を基に10冊の新書を挙げさせていただきました。基本的には(1)「マンキュー入門経済学」「スティグリッツ入門経済学」と同程度の難しさであること、(2)比較的異論のない、スタンダードな内容であること、などを基準に選びました。推薦していただいたにも関わらず入れなかった新書もあり、ご意見をいただいたにも関わらずそれが反映できなかった皆様には本当に申し訳ありません。とにかく多くの皆様からご意見をいただけましたことを、心より御礼申し上げます。
注意:以下のリストは学部1〜2年生(全学部対象)向けの経済学入門の課題図書リストですので、その点はご了解ください。

[経済学全般について学ぶ]
「はじめての経済学〈上〉」伊藤元重、(日経文庫1014)

はじめての経済学〈上〉 (日経文庫)

はじめての経済学〈上〉 (日経文庫)

推薦理由:新書でミクロ経済学マクロ経済学を含む経済学全般について書かれた本は(実は)あまりありません。できれば「〈上〉〈下〉」ともに薦めたいところですが、他の課題図書が一冊なので、公平を期して「〈上〉」のみリストに載せます。一冊の限られたスペースに「経済学とは何か」「マクロの基本」「ミクロの基本」「ゲーム理論の基本」が入っているのはすごいの一言につきます。

「高校生のための経済学入門」小塩隆士(ちくま新書336)

高校生のための経済学入門 (ちくま新書)

高校生のための経済学入門 (ちくま新書)

推薦理由:題名が「高校生のための」となっていますが、大学生(社会人にも)通用する経済学入門です。インフレターゲット政策などの近年の標準的なマクロ経済政策についての記述や財政赤字の問題点など現代人にとって重要な問題への非常に公平な解説が充実しているなど素晴らしい入門書です。もっと多くの人に知られるべき本だと思います。

[経済学を様々な分野へ応用する]
「入門 環境経済学―環境問題解決へのアプローチ」 日引聡、有村俊秀、(中公新書1648)

入門 環境経済学―環境問題解決へのアプローチ (中公新書)

入門 環境経済学―環境問題解決へのアプローチ (中公新書)

推薦理由:標準的なミクロ経済学に基づいて環境問題を解説した非常に珍しい新書です。需要と供給という基本から解説し、外部性、ピグー税、コースの定理排出量取引市場などを一冊の中で解説しているのは非常に貴重です。環境問題というと「地球に優しく」などという精神論が主流ですが、本書のようなきちんと経済学に基づいた分析が普及するべきだと思います。ただし、内容は新書としては少し難しいかもしれません。

[経済学を様々な分野へ応用する]
「こんなに使える経済学―肥満から出世まで」 大竹文雄編著、(ちくま新書 701)

こんなに使える経済学―肥満から出世まで (ちくま新書)

こんなに使える経済学―肥満から出世まで (ちくま新書)

推薦理由:大竹先生を含め、当代随一の研究者たちが経済学の最前線を分かりやすく面白く解説したものであり、読み応えがあります。何よりも読んで楽しく、いろいろ考えさせられるこの本はとにかく素晴らしいです。

「これも経済学だ!」 中島隆信、(ちくま新書610)

これも経済学だ! (ちくま新書)

これも経済学だ! (ちくま新書)

推薦理由:中島先生は「お寺の経済学」などの「経済学を様々な分野に応用した啓蒙書」をいろいろ書かれていますが、その中でもこれが「入門の入門」として最適です。「おお、こんなことも経済学で分析できるんだ!」という新鮮な驚きがあります(なお、同種の本であるレヴィットの「ヤバい経済学」は「新書じゃない」という理由で機械的に落選しました)。中島先生は他にも非常に素晴らしい啓蒙書をいくつも書かれているので、興味を持った人は検索してみることをお勧めします。

[日本経済と世界経済の現状について学ぶ]
「世界同時不況」 岩田規久男、(ちくま新書 770)

世界同時不況 (ちくま新書)

世界同時不況 (ちくま新書)

推薦理由:現在も進行中の「世界同時不況」について、その発端となったサブプライムローン問題やレバレッジなどの基本的な知識から、1930年代の大恐慌、昭和恐慌と高橋是清、世界同時不況からの脱出方法などが分かりやすく書かれている素晴らしい本です。

[日本経済の歴史について学ぶ]
「日本経済を学ぶ」 岩田規久男、(ちくま新書512)

日本経済を学ぶ (ちくま新書)

日本経済を学ぶ (ちくま新書)

推薦理由:日本経済に関して第二次大戦後から現在までを歴史に沿って解説した数少ない新書です。「自由競争がなぜ重要であるか」「日本的経営とは何か」「政府の産業保護がなぜダメなのか」「日本経済の課題や経済政策はどうあるべきか」などの内容を、戦後日本経済の歴史とともに学ぶことができます。

[ゲーム理論について学ぶ]
「戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する」 梶井厚志、(中公新書1658)

戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する (中公新書)

戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する (中公新書)

推薦理由:ゲーム理論は経済学におけるもっとも重要な分野であり、そこから生まれた新産業組織論などを含めて、現代経済において最も大きな位置を占めているためです。特に日本は、ゲーム理論の世界的な研究者が多く、その先生たちの多くが「啓蒙書を書くのもうまい」という恵まれた環境にありますが、今回は「新書」ということでこの本を推薦します。「ゲーム理論を使うとこんなことも分析できるのか!」と驚きとともに学ぶことの多い素晴らしい本です。梶井先生は「故事成語でわかる経済学のキーワード」という新書も書かれていてこちらも素晴らしいので、興味を持たれた人はぜひ。

[経済学を経済・社会問題に応用する]
「雇用大崩壊―失業率10%時代の到来」 田中秀臣、 (NHK出版・生活人新書)

雇用大崩壊―失業率10%時代の到来 (生活人新書)

雇用大崩壊―失業率10%時代の到来 (生活人新書)

推薦理由:最近の世界同時不況や格差問題などについて経済学的な観点からどのように分析すれば良いか分かるため、「経済学をどのように経済・社会問題に応用するか」知りたい人にお勧めします。

「経済成長って何で必要なんだろう?」 芹沢一也荻上チキ、 飯田泰之岡田靖赤木智弘、湯浅 誠、(光文社SYNODOS READINGS新書)

経済成長って何で必要なんだろう? (SYNODOS READINGS)

経済成長って何で必要なんだろう? (SYNODOS READINGS)

推薦理由:経済学を用いて、貧困や格差問題に立ち向かうにはどうすべきか、論客たちによる様々な議論を読むことができます。SYNODOS READINGSというシリーズは今後も続けるようなので、今後の発展にも期待しています。

[リスト作成にご協力いただいた皆様]
tanakahidetomiさん、kanetomodaiさん、JD-1976さん、shinichiroinabaさん、yyasudaさん、arutaiさん、SMAP/Vさん、中井さん、なすさん。本当にありがとうございました。