小島先生への質問

正直に言って、来週9月3日に"Dynamic General Equilibrium Models under the Liquidity Trap and a Self-organizing State Space Model"という題名の研究発表をある研究会*1でさせていただくことになっていて、その準備にかなり忙しいので、「俗 事 は 任 せ る」(神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの声(声 - 若本規夫)で)と言いたいところですが、いくつか不明な点があるので、馬鹿な矢野のために小島先生からぜひともご教授いただければ幸いです。

[矢野が書いた関連エントリー]
http://d.hatena.ne.jp/koiti_yano/20080824/p2

[小島先生のエントリー]
http://d.hatena.ne.jp/hiroyukikojima/20080827

[まず用語が分からない]
非常に申し訳ないことですが、まず用語が分かりません。

念のため確認しておけば、マクロモデルにおいての「均衡」というのは、「均衡動学経路」のこと

「均衡動学経路」というのが何を意味するのか分かりません。

「(均衡が存在する場合に)現在、なんらかの理由(外生的ショックなど)により均衡から乖離しており、その乖離した地点から、均衡へ収束する経路」のことなら、通常それはsaddle pathと呼ばれており、日本では多くの場合「鞍点経路」という訳語を割り当てると思います。

[なぜ経路の話になるのか分からない]
なぜ(Bernankeの原文を無視して)経路の話になるのか分かりません。ちなみにBernanke先生は

これは均衡においては明らかに不可能である(原文では"This is manifestly impossible in equilibrium.")。

均衡というのは通常、無時間だと矢野は理解しているのですが、小島先生は「念のため確認しておけば、マクロモデルにおいての「均衡」というのは、「均衡動学経路」のこと」と書いておられることから「均衡=均衡動学経路」と主張しておられると思いますが、均衡というのは「経路」なのでしょうか?

[ゲーム理論を持ち出す理由が分からない]
なぜゲーム理論を持ち出すのか分かりません。

Kydland and Prescott (1977)以降、マクロ経済学では「民間部門と政府(もしくは中央銀行)がお互いに相手の戦略を読みあうような状況は好ましくない」と考えられており、そのため「ルールに基づく政策(Kydland and Prescott (1977)の題名"Rules rather than Discretion"が示すように)」もしくは「(裁量を制限した)ターゲットに基づく政策」が常識的だと矢野は理解しています。マクロ経済学の標準的教科書ではそのために一章を割いて解説してあります(たとえばWoodford(2003), Walsh (2003), Gali (2007), 加藤(2006)など)。

インフレターゲット」は「民間部門と政府(もしくは中央銀行)がお互いに相手の戦略を読みあうような状況」に陥らないための方策の一つだと矢野は認識しています。そのような前提で話をしているところに「ゲーム理論では・・・」と意見をいただいたも、「いや、そもそもそんな議論はしていません」という回答しか思いつきません。

[そもそも何を言いたいのか分からない]

今、「期限までに目標のインフレを達成できなかったら、中央銀行の総裁は死刑になる」というえげつないルールを作ろう。そして、期限はあと一回の売買にかかっているとする。このとき国債を持っている国民はどうするだろうか。中央銀行は総裁の命がかかっているのだから、いくら高くても国債を買うはずだ。だとすれば国債の価格は無限大になってしまう。価格が無限大になる、ということは、ぼくの理解では、資産にハイパーインフレが起きたことではなく、モデルが破綻している、ということだ。つまり、均衡動学経路が存在しない、ということになる。

「期限までに目標のインフレを達成できなかったら、中央銀行の総裁は死刑になる」という常識的にありえないルールを作って*2、結論が「(この)モデルが破たんしている、ということだ」では何が言いたいのか分かりません(「破たんした前提を置いたら、結論も破たんしていました」と主張しておられるように読めてしまいます)。

そんなルールがあったら中央銀行総裁になる人がいないのではないでしょうか?そもそもこの話題って「存在しないものを扱って背理法をする怖さ(小島先生の記述による)」が起点だったのでは?

「均衡動学経路(それが何を意味しているのか不明ですが)が存在するかどうかを証明する必要がある」ということをおっしゃりたいのであれば、もう少しTaylorルールやインフレターゲットなどの現実的な例で論じ直していただけると幸いです。

[いろいろと質問させていただきましたが]
以上、浅学菲才を顧みず、小島先生にいろいろ質問をしてしまい本当に申し訳ありません。お時間のあるときで結構ですので、教えていただけると幸いです。

[参考文献]
Bernankeの原文はこちら
http://www.princeton.edu/svensson/und/522/Readings/Bernanke.pdf
その他の文献や教科書は常識的なものだと思いますので省略させていただきます。

*1:一般の方には非公開の研究会[矢野の理解では]で申し訳ありません。

*2:少なくとも矢野の知る限りこんなルールを提唱したマクロ経済学者はいないと思います