"The Humen Code"〜スパコン開発の生きる伝説〜

まあ、とりあえず、何も言わずに以下のカッコいい写真を見てくださいな。写真の人物は後藤和茂さん。背景の写真は後藤さんが手で書いたアルゴリズム(の一部)です。

スーパーコンピューター開発には二つの側面があります。一つはハードウェア開発です。分かりやすく言えば、スパコンの「装置の部分」の開発ですね。「世界一高速なスパコンの地位がアメリカに奪われた」などとマスコミで報道される時、ほとんどの場合はハードウェアの話だと思います。

スパコン開発にはもう一つの側面があり、それはソフトウェア開発です。そして、テキサス大学スパコンのソフトウェア開発で「生きる伝説」となった研究者・後藤和茂さんがいます。

その後藤さんが開発したGotoBLAS(「ゴトーブラス」と発音する)を使うと、数値計算がさらに速くなります。スパコンでなくてもGotoBLASを使うと様々な科学計算が高速化することが知られています(実は矢野もお世話になっています。今や科学計算でGotoBLASを使うことは科学者の常識と言ってもいいほどです)。ちなみに面白いのは後藤さんは上の写真のようにすべてのアルゴリズムを自分の手で紙に書くんだそうです。

テキサス大学のサイトで後藤さんを紹介したページ"The Human Code"の最初の部分を少しだけ訳してみます。
"The Humen Code"

人間とマシンの間の闘いの中で、少なくともある一つの戦いに関してはその男が勝利を収めつつある。

その男の名前を後藤和茂といい、テキサス大学オースティン校のTexas Advanced Computing Center (TACC)の研究員である。後藤はスーパーコンピューターをより早くより効率的に走らせることができ、彼が開発したプログラムは同じ目的のために開発された他のプログラムよりも優秀である。
(中略)
後藤がTACCに移籍してくるとアナウンスされた時に「彼は世界級の人材だ。TACCは本当にラッキーだ。彼みたいな人材を技術スタッフに迎えられるなんて」とローレンス・リバモア国立研究所のマーク・シーガー博士は言った。

後藤がやっている仕事(スーパーコンピュータのさらなる高速化)は一種の秘伝のような(普通の人には不可能な)ものだと思われている。しかし、ハイパフォーマンスコンピューティングはいつも注目の的だ。だから、彼は今やスーパーコンピューター業界の伝説となりつつある。

http://www.utexas.edu/features/2006/goto/

後藤さんは元々は特許庁の職員で、10年ほど前に通勤途中に最適化問題の勉強を始めたのが、現在の地位を築く元になったのだそうです。これだけの才能のある人が日本では認められず、海外に頭脳流出してしまったことは非常に残念なことです。

資源のない日本が技術開発競争に敗れ、滅びていくとしたら、その原因は技術者や技術がないためではなくて、単純にそこにいる優れた技術者と技術を生かしていくノウハウがないからなのではないでしょうか?この事態を解決する「構造改革*1が日本には必要なのだ、僕はいつもそう思います。

[参考] 地球シミュレータ開発者の渡辺貞氏がクレイ賞を受賞
http://slashdot.jp/articles/06/11/11/1635236.shtml

*1:小泉前首相が唱導した「構造改革」とはかなり違ったものではないかと思います。