[マクロ経済学] 一家に1冊「ゼミナール経済政策入門」

[思ったよりも長い要約]
岩田・飯田「ゼミナール経済政策入門」は3360円(税込み価格)で経済学の予備知識なしに経済政策全般について学べる非常にお得な本である。

第1章で経済学の基礎を学び、市場への政府の介入などのミクロ経済政策を学び、その後で財政政策や金融政策などのマクロ経済政策を学び、最後に税や年金などの近年非常に世間の関心が高い所得配分政策を学ぶ。

説明は「経済学の原理」→「政策の記述/分析」→「現代日本における課題」という流れで一貫しており、読者の理解に配慮されている。数式はほとんど登場せず、多くの場合、内容は言葉と図だけで説明されている。

また、現時点では解決していない問題に関しては「分からない」とはっきり記述してあり、著者らの研究者のとしての誠実さが現れている。

経済政策について興味があるが、まだ経済学を学んだことがない人にとっては良い入門となると考える。

[無駄に長い推薦文]
この国は怒りと恐怖に満ちている。他人のblogを読んでいてよく感じることだ。

曰く、「巨額の財政赤字(正しくは公債の累積残高)で、ハイパーインフレがやってくる!」

曰く、「官僚が国を牛耳っている」

曰く、「愛国心がないと、国力は上がらないから、資源のない日本は簡単に植民地化されちゃうであろう。

僕は考える。「それでその『ハイパーインフレ』はいつやってくるの?」

僕は疑問に思う。「官僚抜きで国は運営できるの?」

僕は不思議に思う。「愛国心があると国力が上がるの?」

今後も十分に長い期間にわたって名目GDPが安定的に成長すると見込まれるならば、公債の累積残高上昇はそれほど深刻な問題ではないし(まったく問題ではないとは言わないけど)、市場が失敗する場合には政府がその市場の失敗を補う必要がある(その政府を運営するには官僚が必要だ)。

それと・・・えーーっと、愛国心があると国力が上がるのか?いや、そもそも国力って何だ?

もっと多くの人たちが経済学を学んでくれればいいと思う。いやいや、人に言うことじゃないな。僕が経済学を始めて学んだのは2001年で、僕は31歳になっていた。

31歳になる前の僕よ、君はもっと早く経済学を学ぶべきだった。

そうすれば、君が2001年以前に感じた恐怖や怒りから無縁でいられただろう。

恐怖や怒りに打ち勝つ方法はただ一つ。学ぶこと。

問題は良い教科書があまりないことだ。いや、あまりなかったことだ。

「ゼミナール経済政策入門」なら、ほとんど予備知識なしに読み始めることが可能で、情報の経済学といった今日重要な内容をミクロ経済政策という観点から学ぶことができるし、動学的非整合という問題からインフレーションターゲットの必要性を学ぶこともできる*1

わが国は別に「神の国」ではないし、かといって崩壊しつつあるダメな国でもないと思う。わが国の将来は特に暗くはないのではないかと思う。

少なくとももう少し多くの人が経済学を学んでくれれば。

[補足] 「ゼミナール経済政策入門」には抜けいていると思う内容もある。為替の話と福祉の話である。著者らの今後の著作に期待したい。

[参考] 一家に1枚ヒトゲノムマップ
http://stw.mext.go.jp/20060414/index.html

*1:分量もスティグリッツの経済学の教科書3冊組を読むことに比べればかなり少ない