ハリ・セルダンになりたくて 第1部 (6)

第1部の終わり

さて、これで話は終わりだ。第1部は2004年末から2005年末の話だった。ところで、第1部があるからには第2部があるのか?誰もが疑問に思うに違いない。「週間少年ジャンプ」なら「第1部完」と書いてあるのに、いつまで経っても第2部が始まらないことがよくある*1のだが・・・

少し考えてみよう。もし2006年の前半に景気が悪化したとして、それがはっきり分かるのはいつ頃だろうか?「景気が悪くなったらすぐに分かるはずだ」って?

残念ながらそうではない。

たとえばここまで何度も言及してきた名目GDPを例に考えよう。名目GDP内閣府によって発表されるのだが、実はいくつか段階があり、まず対象となる期間が終わってから約2ヵ月後に「1次速報」というものが発表される。これはあくまでも速報であって、後々になって修正されることが多いことが知られている。さらにその「1次速報」の約1ヶ月後に「1次」よりもちょっとましな「2次速報」があり、最終的に確定する「確報」は・・・えーっとえーっと、2007年になるんじゃなかったけな?
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/yotei.html

さて、ここで少し面白い研究があるので紹介しておこう。スタンフォード大学の著名な経済学者Taylor教授は1993年に有名なTaylorルールというものを発表した。これはある種の数式でTaylor教授の研究によれば「この数式を使えば、Fed連邦準備制度*2の金融政策をうまく説明」できる。

Taylor, J. B., (1993), “Discretion vs. Policy Rules in Practice,” Carnegie-Rochester Conference Series on Public Policy, Vol. 39, 195-214.

それならば、逆にこのルールを使って、金融政策をよりよく実行できないだろうかと思うのはそれほどおかしな話でもないだろう。

しかし、それに対してOrphanidesという研究者が異論を唱えた。2001年のことだ。Orphanidesの主張はこうだ。「中央銀行は現在の経済の状態をリアルタイムに知ることはできない」。最も早く得られる「1次速報」を使うとしても数ヶ月はかかるし、その「1次速報」(後で修正されることが多い)を使うと・・・実は、結果はちょっと悲惨なことになる。あくまでもアメリカの例だけど。

Orphanides, A., (2001), “Monetary Policy Rules Based on Real-Time Data,” American Economic Review, Vol. 91, 964-985.

この論文を読んだのは今から3年ほど前だが、正直に言って読んだ後、しばらく頭を抱えた。現在の経済の状況を知るためのデータが今すぐには得られないという問題は今でも厄介な課題だ。

金融政策の効果が経済に現れるまでに長い時間が必要なこと。確報が得られるまでに長い時間がかかること。考えてみれば、経済とはやっかいな研究対象だ。

だから、第2部があるとしても、それは早くても2006年の12月頃になるのではないかと思う。

*1:この場合、皆さんよくご存知のように第2部は永遠に始まらない

*2:アメリカで金融政策を担当している