ギャンブラーの誤り (2)

前回の続き
インドが生んだ偉大な統計学者Raoの著作「統計学とは何か」[残念ながら現在品切れ](原題"Statistics and Truth")に以下のようなエピソードが紹介されている。

(医者が患者に対して)「あなたは大変重い病気です。この病気にかかった人で生き残れるのは10人にたった1人です。しかしご安心ください。あなたが私のところにいらしたのは、とても幸運でした。なぜなら私はこの病気の患者を、最近9人みました。そして彼らは全員死んでしまっているからです(あなたは確実に助かりますよ)」(ラオ「統計学とは何か」pp.17-18)[括弧内は筆者の補足]

前回を読んだ方はすぐに分かると思うが、9人がすでに死んでいるからといって10人目の患者が助かる確率が上昇するわけではない。これは「ギャンブラーの誤り」に陥ってしまった分かりやすい例である(Raoの本でもそれを読者に理解させるためにこのエピソードを紹介している)。

さて、前回はある俳優の言葉から「ギャンブラーの誤り」について学んだのだが、では、その俳優の提唱するやり方は効果がないのだろうか?実はそうではない。「効果」はあるのだ。

前回の設定同様、「(女性の)20人に声をかけてひとり成功する確率」だとする。1回目に声をかけて失敗する確率は1-(1/20)になるに違いない。つまり1-(1/20) = 19/20。

1回目が失敗したとして、続いて2回目にも失敗する確率はいくらだろうか?失敗が2回続くので当然(19/20)×(19/20)になるだろう。この計算を続けて20回連続で失敗する確率はいくらになるだろうか?少し計算が大変なので、電卓などで計算してみるといい(筆者はRという統計解析言語で計算した)。それで答えは(19/20)^20=0.3584859になる(ここでは記号の^は20回掛け算を繰り返すことを意味する)。

少し分かりくいかもしれないので、%(パーセント)表示に直すと約36%になる。つまり連続して失敗する確率は約36%だということだ。逆に言うと20回、声をかけたときにどこかで何回か成功する確率は約64%あるということになる。それほど悪くない数字だ。

結局、少し意外な結論が出た。彼の方法はある程度は効果があるのだ。とはいえ、依然として効果がある理由についてのある俳優の理解は間違っているのだが・・・まあ実害はなさそうだから別にいいかなぁ・・・