大坂堂島米会所〜富樫倫太郎作「堂島物語」〜

さて、今年も講義で大坂堂島米会所について取り上げました。ファイナンスを勉強した方はよくご存知だと思いますが、堂島米会所は世界ではじめて組織的に先物取引が行われた場所です。設立されたのは江戸時代享保15年(1730年)だそうです。

まあ、正直に言ってファイナンスにも歴史にも詳しくない矢野ですが、様々な先行研究を読むと、米会所では現在の先物取引と比較しても引けを取らないほどのしっかりした仕組みで米の先物取り引きが行われていたようです。設立には大岡忠相(要は大岡越前ですね)が関わっているなど歴史ファンにとっても興味深いのではないかと思います。

講義でわざわざ米会所の話を取り上げるのは、世界に先駆け日本で行われた素晴らしい試みであるにも関わらず歴史の彼方に埋もれてしまった米会所のことを学生たちに知ってほしいという矢野個人の希望があるからです。

日本では「先物取引」には良くない感情を持つ方が少なくないと思いますし、そのことはある面では無理からぬことだとは思うのですが、単純に歴史に埋もれさせるのは大変に残念なことだと思っています。

とはいえ、米会所の話は先物取り引き自体の説明が少し難しいなどいろいろな事情があって、一般の方が知るのは難しいのではないかと思います。

実は去年の講義のときにいろいろな先行研究にあたってみて、富樫倫太郎さんの小説「堂島物語」に出会いました。内容は貧しい農家から商家に働きに出た主人公・吉左が出世していく過程を追いながらそれに米取引と吉左と加保という娘の恋の行方が絡んでくるというもので、読んでみた感想としては、ヘビーな時代小説というよりは「当時の米取引がどのように行われていたのか」を知る手軽な読み物として非常に面白いと思いました。

この小説では米会所が設立されるのは物語の終盤に入ってからなので、それ自体についての記述は多くはありませんが、米会所設立は当時大坂ですでに行われていた現物取引先物取引の「幕府による追認」という側面が強かったようです。なので、米会所に限らず、当時の米取引の様子を知りたい方は(あくまでも小説だということを忘れずに)読んでみられると面白いと思います。

堂島物語

堂島物語

[追記]
他にも島実蔵さんの「大坂堂島米会所物語」という小説もあり、こちらはまだ読んでいないのですが、何とか時間を作って読んでみたいと思っています。amazonの評判を見るととても面白いみたいです。

大坂堂島米会所物語

大坂堂島米会所物語

[参考文献]
インターネット上で検索してすぐに読める物だけを列挙します。網羅的ではないので、重要な文献が抜けているかもしれません。「これが抜けるのはまずい」という文献に気がつかれた方がおられたらコメントで教えていただけると幸いです。

脇田成「近世大坂堂島米市場の非定常時系列分析」
http://www.jcfia.gr.jp/study/ronbun-pdf/no13/7.pdf

加藤慶一郎「大坂堂島米会所における米価形成−相場報知状の検討をとおして−」
http://www.jcfia.gr.jp/study/ronbun-pdf/no10/1.pdf

堂島米会所 マイクロ・ストラクチャーとヘッジ機能
http://risk.sfc.keio.ac.jp/dojima/

大阪の市場 | 写真の中の明治・大正 - 国立国会図書館所蔵写真帳から - 関西編
http://www.ndl.go.jp/scenery/kansai/column/markets_in_osaka.html

大江戸経済学 大坂堂島米会所
http://www.h6.dion.ne.jp/~tanaka42/doujima.html