講義内容に関して少し考えたこと(補足)

先日の「一年間「経済学入門」を担当したので最後に「まとめ」」の補足です。

僕が行った通年の「経済学入門」は基本的に「スティグリッツ入門経済学<第3版>」に沿っているので、内容は基本的には非常に古典的で、基本的にはもう何十年も変わっていないようなものばかりだと思います。

しかし、講義をそういった古典的な内容だけとするのは少し物足りなかったため、少し考えていくつか教科書にない内容を講義に加えたので、その点について補足しておきます*1

まあ、これがうまくいったかどうかは矢野自身もまったく確信が持てませんので、評価はご覧になった皆さんにお任せしたいと思います。

[前期:ゲーム理論]
「経済学入門」ではゲーム理論が無視されることが少なくないのですが、以前からそれは大きな間違いだと思っていました。ゲーム理論は僕の専門ではないので、こんなことを言っても信用してもらえないかもしれませんが、日本で最も素晴らしい研究者が多いのがゲーム理論をはじめとしたミクロ経済学です。そのため、一回分を割いて「囚人のジレンマ」を取り上げました。ただし、得意分野ではないので、説明はうまくなかったのではないかと思っています。

[前期:ネットワーク外部性]
それと少し異例な内容としては「ネットワーク外部性ネットワーク効果)」を取り上げた点です。特に携帯電話やインターネットなどのネットワークを使いこなす現在の若い人たちが「ネットワーク外部性」について知っておくことは損ではないと思います。通常の経済学入門では無視される内容ですが、あえて時間をとって解説することにしました。こちらも得意分野ではないので、説明はうまくなかったのではないかと思っています。

[後期:マクロ経済学と合理的期待]
旧来のケインジアンマクロ経済学では人々は適応的期待に従って行動すると仮定されており、将来を予測する合理的期待は仮定されていませんでした。それに対して1980年代以降、「人々が合理的期待に従って行動する」と考える「合理的期待形成学派」が主流になってきました。もちろん「スティグリッツ入門経済学<第3版>」はそのことを踏まえた記述になっているのですが、さらにそれを押し進めた解説を心がけました。

とはいえ、「合理的期待形成」などと言う言葉を使うと学生さんたちが委縮するのではないかと考え、あえて「アリ型家計(合理的期待)」「キリギリス型家計(合理的期待しない場合)」という言葉を使って説明をしました。

[後期:行動経済学]
従来の経済学では「合理的経済人」という仮定から出発することが多いです。それに対して近年、人間の非合理性を重視する行動経済学が発展してきました。その中で行動経済学の研究者は非合理性を基本(つまり「人間は非合理的な存在である」という考え方を出発点)にすることを考えているようですが、正直に言うと僕自身は「合理的経済人」を基本にしてそれに後付けで非合理性を加える方が良いと思っています。

とは言っても(1)僕の意見を学生さんたちに押し付けるようなことはできればしたくなかった、(2)行動経済学自体は今後も大きく発展していく有望な分野だと思われる、という理由からあえて取り上げて、考える材料を提供するという方針で講義に含めました。

[反省点]
経済学は非常に長い素晴らしい歴史のある学問だと思っています。そのため、経済学入門ではその「古典的内容」を教えることが最も重要だと思います。

しかし、知的好奇心旺盛な若い人たちのために近年の経済学の発展について解説することも悪いことではないと思います。ただ、一つ失敗したと思うことはそのために時間が足りなくて「企業の利潤最大化行動」と「経済成長」という古典的ですが非常に重要な話題について取り上げそこなったことです。率直に言って反省しています。今後もさらに工夫をしていきたいと思っています。

・・・さて、4月からの経済学入門では何をネタに取り上げようかなぁ・・・

*1:普段の当blogをご覧の皆さんは「え?お前、本当にそんなことを考えてたの?嘘だろ」と思うかもしれないけどw