インタゲ論争とその参加者

「日本でインフレターゲット政策を採用すべきかどうか論争」(以下、インタゲ論争)についてコメントをいただいたのですが、元エントリーの話題が「地球温暖化」で、元エントリーの本筋から離れていると思うので、新しいエントリーを作ります。

まず、「インタゲ派(リフレ派)の口が悪かったか?」ですが、「(リフレ派の一部は)確かに悪かった」と思います。

が、「反インタゲ派」の口の悪さはそれ以上だと思います。与謝野馨先生はインタゲ派を「悪魔的インフレ政策」、山崎元さんは「(インタゲ派は)声の出るゴキブリ」(ただし、山崎さんは最近、インタゲ派に転向されました)、池田信夫先生は最近、「バーナンキのpoorな金融政策」などと発言しておられます(池田先生は多分野にわたってご活躍の素晴らしい研究者だと思いますが、バーナンキ先生をpoor呼ばわりできるほど金融政策に造詣が深いとは不勉強で知りませんでした)。

インタゲ派(リフレ派)の一部が、(正直に言って)礼を失している部分があったことは否めませんし、矢野はそのようなリフレ派(の一部)にはまったく同調できませんが、それでも自分たちの論争相手を「悪魔」だとか「ゴキブリ」だとか言ったリフレ派はさすがにいないと思います。

nin 2008/07/24 10:12 それは私の感覚とあまりに違いますね。矢野さんはともかく、日本でインタゲの議論を展開した人こそ、ある意味感情的でありました。

インタゲを議論するときに、私は最低限、WoodfordとWalshのテキストを参照しますが、彼らの議論、特に、Woodfordはかなり議論を慎重にしています。効果がある範囲も限定しますし、opitmal policyの導出部などは、かなり慎重にしています。そもそも彼の議論はすべてsteady stateの周りの議論ですから、当然といえば当然です。また、ミネソタ出身の人の議論をしばしば参照し、金融政策の効果をそもそも認めない人の研究も紹介していきます。非常にフェアだと感じますし、そのような議論を丁寧におえば、大きな事を言うことは難しくなると思います。

それに対して、日本でインタゲを大きな声で喧伝した人にはそういう人はいませんでした。そもそも金融政策の分野でレフェリー付の論文に乗せたことがなかった人や、海外ではインタゲが主流だとウソを書いたりとか、人によっては、個人名をあげてインタゲ支持派と反対派を分類する人もいました。

いずれにせよ、私は大きな事を言う人は嫌いです。そして、インタゲ支持派の多くはそういう人が多いのです。反対派が違うとはいいませんけれど。

(1)まず、Woodfordの"Interest and Prices"の議論の進め方が非常にフェアで、見習うべき点が多いというご意見にはまったく賛成です。「研究者はこうあるべき」だと思いますし、矢野自身が目指すところでもあります。

(2)日本のリフレ派に「そもそも金融政策の分野でレフェリー付の論文に乗せた」ことがある人が皆無というのは事実です。ただ、そもそも日本では「(国際ジャーナルに)金融政策の分野でレフェリー付の論文に乗せたこと」がある研究者が指を折って数えられる程しかいませんし、さらに限定して「(国際ジャーナルに)流動性の罠に関してレフェリー付の論文に乗せたこと」がある方はさらに少なく、Jung, Teranishi, Watanabe (2005)他、ごく少数しかありませんので、「日本でインタゲを大きな声で喧伝した人」に入っていないのは自然なことだと思います。「日本でインタゲに反対した人」にも「(国際ジャーナルに)流動性の罠に関してレフェリー付の論文に乗せたこと」がある方はほとんどおられないように思います。そこを追及しても分かるのは「日本における(DSGEやベイズ統計学を活用する)マクロ経済学者不足」だけなのではないかと思います。

(3)「私は大きな事を言う人は嫌いです。」:ninさんは「インタゲ派は感情的な人が多くて良くない」と非難されるわけですが、ninさんご自身も感情的になってはおられませんか?

マクロの通りすがり 2008/07/25 11:49 僕もninさんと同じような感想を持っています。まともに経済学を勉強したならinflation targetのoptimalityなどという強い命題が限定的にしか成り立たないことくらいわかると思います。それをこの結果がとてもrobustなように議論されるのを見ると、この人たち大丈夫かいな、仲間とは思われたくないな、と思ってしまいます。ちょっと経済学を勉強した(PhDを持ってるレベルの人)であれば、同じような感想を持っているのではないでしょうか。

いわゆるinflation targetをpromoteしている人たちは、academiaではほとんど発言力のない人たちなわけで、そういう人だけが騒ぐと、かえって、その政策自体が(正しい政策であれ)疑われてしまうという残念な側面もあると思います。

(1)「ちょっと経済学を勉強した(PhDを持ってるレベルの人)であれば、同じような感想を持っているのではないでしょうか。」というご意見はちゃんと実証分析してみないと何とも言えませんよ。「インタゲ派はいい加減だ」と主張しておきながら、自分の主張の時には自分の印象だけに基づいて意見を述べるのはあまりフェアではないように思います。

(2)矢野自身は、「事実」や「主張」、「個人的印象」「単なる思い付き」などが読者に分かるように書かれていれば、問題ないと思います。

(3)わが国には言論の自由がありますので、「academiaではほとんど発言力のない人たち」がインタゲを主張することは特に問題があるとは思いません。が、そう言いたくなる気持ちはよく分かりますので、ある程度賛成いたします。

(4)マクロの通りすがりさんなら2000年当時の日本経済や、現在の日本経済に対してどのような政策提言をされますか?