モンテカルロ粒子フィルター〜さよならカルマンフィルター〜

(2014年7月27日追記)日本統計学和文誌に「粒子フィルタの基礎と応用」という記事を掲載いただくことになりました。「動学的確率的一般均衡モデル&ベイズ・マクロ計量経済学」のページに草稿版をアップロードしています。ご笑覧ください。(追記ここまで)

前のエントリーの続きです。

「(n次)微分可能」とか「連続」とかって、それだけでかなりの仮定を置いてるような…
それくらいの仮定を置かなきゃ、手も足も出ないでしょうけど… (遺伝的アルゴリズムとかシミュレーテッド・アニーリングとか使うと何とかなったりするんでしょうか。)
素人のタワゴトでした。

普段、矢野はこのblogでは「動学マクロ理論が〜」ってな話しかしないのでほとんど誰も知らないのですが、矢野の(本当の)専門はモンテカルロフィルター(Monte Carlo filters)といいます。大雑把に言って「逐次モンテカルロ法(sequential Monte Carlo Methods)」という手法の中の一つです。

実はこのモンテカルロ・フィルターは遺伝的アルゴリズムとちょっと似ていることが知られています(そもそもの発祥と目的が相当違うので本質的な部分では違うのですが、ちょっとに似ている部分がある)。

[参考文献]
1. Kitagawa, G., (1996), "Monte Carlo Filter and Smoother for Non-Gaussian Nonlinear State Space Models", Journal of Computational and Graphical Statistics, Vol. 5, 1-25.

2. 北川源四郎、(1996)、「モンテカルロ・フィルタおよび平滑化について」、統計数理 Vol. 44.
http://www.ism.ac.jp/editsec/toukei/pdf/44-1-031.pdf

3. 樋口知之、(1996)、「遺伝的アルゴリズムモンテカルロフィルタ」、統計数理 Vol. 44.
http://www.ism.ac.jp/editsec/toukei/pdf/44-1-019.pdf

4. 樋口知之、(2005)、「粒子フィルター入門」
http://www.ieice.org/jpn/books/kaishikiji/2005/200512.pdf

5. Particle filter (Wikipedia[英語])
http://en.wikipedia.org/wiki/Particle_filter
モンテカルロフィルターと同じアルゴリズムです。

6. 矢野浩一・佐藤整尚、(2007)、「初期分布探索付き自己組織化状態空間モデルによる金融時系列解析の最前線:t分布付き確率的ボラティリティ変動モデルへの応用」、FSAリサーチレビュー(2006年度版)
http://www.fsa.go.jp/frtc/nenpou/2006a/05.pdf
モンテカルロフィルター(粒子フィルター)と自己組織化状態空間モデルに関する簡単な説明が入っています。

(補足1)文献1は北川教授(現統計数理研究所所長)による論文で、モンテカルロ粒子フィルターが世界に現れた記念すべき論文です。文献2はその内容を北川先生本人が日本向けに解説したものです。文献3でモンテカルロフィルターが遺伝的アルゴリズムとその発想に似たところがあることを詳細に説明した論文です。文献4は日本語で読める現在唯一のモンテカルロフィルター入門です。文献5は意外に充実しているWikipediaです。

(補足2)北川先生がモンテカルロフィルターを提唱されたとほぼ同時期に独立に英国のGordonらが同じアルゴリズムを提唱しています。また、似たようなアルゴリズムがそれから続々と発表されたこともあり、そのアルゴリズムをどう呼ぶか結構バラバラです(要は研究者がみんな勝手に名前をつけた)。

矢野は一貫してモンテカルロフィルターと呼んできたのですが、最近は「粒子フィルター」という呼び名が普及してしまい、日本人研究者の中でさえ「モンテカルロフィルター」と矢野が言っても「それなんですか?」と聞かれる方がおられます。でも、「粒子フィルター」と言い直すと「ああ、粒子フィルターですね」とすぐに分かるそんな状況です。

非常に残念なことだと思うのですが、毎度毎度、聞かれるのも面倒なので、最近は少し妥協して「モンテカルロ粒子フィルター」と言うようになりました。

長くなってしまったので、続きは明日、「微分不可能な関数の最適化」という題名で書きます。

[参考] モンテカルロフィルター(粒子フィルター)のソースコード・入門書 - ハリ・セルダンになりたくて
http://d.hatena.ne.jp/koiti_yano/20081115/p2