矢野が好ましいと思う生き方:ポール・レチェット

J. P. ホーガンというSF作家の「断絶への航海」というSFがあり、その中にポール・レチェットという人物が登場するのですが、この人物の登場シーンがちょっとカッコいいので、少し長いのですが引用してみます。

ポール・レチェット議員は、旅の終わりの数年間にそこで議論されたほとんどの議案に対して穏健一途の評価を得てきた人物であった。

科学者ではないが人類の歴史にこれまでずっとつきまとってきた諸問題を解消しうる唯一の方法として科学の進歩を強く唱導する彼は、自分の職業の範囲内でも、伝統がつくりあげた慣習などよりもはるかに大きな可能性を持つことが証明されたと思われる科学的方法の有効性を、固く信奉していた。

彼は、常に用語を明確に定義し、事実を客観的に貯蓄し、その意味内容を公正に評価し、そしてその評価を明確に検証するように努めている。

かくて当然ながら彼は、あらゆる陳情者にある程度までは同意し、あらゆる特殊権益をある程度までは支援し、あらゆる少数意見にある程度までは共鳴し、あらゆる派閥に対して条件つきで賛成することになる。

合理化には細心、外挿には慎重、一般化には懐疑的、独断論には猜疑的である。感性や情熱より理性と論理の方に感応し、討論にさいしては常に偏見を拝し、判断は厳密な妥当性を基盤とし、新たな情報に接すれば再考をいとわない。

その結果、彼には社会的に高い地位を持つ友人はほとんどなく、また強力な支持者もいない。

それでも彼はその基本方針に忠実で、常に慎重さを旨とし、衝動に身をまかせたりはしない。だからこそフルマイア判事は、自分の懸念する事態が舞台の裏側で政治的に形をとりはじめているのではないかという疑念を、安心して彼に打ち明けたのだった。

(J. P. ホーガン「断絶への航海」ハヤカワSF文庫[小隅黎訳] pp. 276-277より引用)

レチェット議員は「断絶への航海」というSFの中盤になってからしか登場しないのですが、登場以降、物語の戦いの中で徐々に重要な位置を占めるようになり、主人公たちの支えとなり、物語の最後を締める役割を果たすまでになります。

堅物の科学主義者である(であった[?])ホーガンがいかにも好きそうな人物です。ただし、実際の世界はホーガンの作ったSF世界とは違い、こんな生き方は不可能だと思いますが。

「断絶への航海」というSFを読んだのは今から20年近く前(高校生の頃)なのですが、今でも時々「ポール・レチェット」のようになりたいなんぞと思ったりなんかすることもあったりなかったりするわけです。いや、まじめな話、「矢野の信条」として机に張っておきたいくらい。

ええ、まあ、矢野は元々がダメダメ人間なんで、どんなに頑張ってもこんなすごい人にはなれませんけどね_| ̄|○