ハリ・セルダンになりたくて 第1部 (1)

星は見えなかった

2004年の12月半ばの深夜のことだ。僕は胃が痛くて道端に座り込んでいた。キリキリと痛んでしょうがなかった。僕はコートが汚れるのも気にせずにその場に座り込んだ。僕を見咎める人は夜更けで道には誰もなく、僕は刺すように冷たいコンクリートの歩道で膝を抱えた。

「あれのせいだ」僕は心の中でつぶやいた。「あれ」とは僕が1年ほど前から書いていた論文のために数日前に出した計算結果のことだ。僕の論文は時系列解析と動的計画法を用いて経済を最適に制御する・・・えーーっと、難しい話はともかくとして、僕の研究は「政府が経済を最適に運営するにはどのようにすればよいか」を調べることなのだ。

僕は2003年の半ば頃からこの研究をはじめ、かなりみすぼらしいプロトタイプのプログラムから出発し、数ヶ月前にきちんとしたプログラムが完成した。そして、ついに数日前に日本経済の場合のシミュレーション結果が出た。

「2006年から不況がはじまる」そうプログラム結果は教えていた。

そして、それを止める方法はない。多くの人が苦しむだろう。僕はそれを待つしかない。それが胃痛の原因だった。空を見上げた。

星は見えなかった。

どんなに目を凝らしても、それが曇っているからなのか、東京の空が明るくて星が見え難いからなのかは結局、分からなかった。