ポンペイの四日間

ロバート・ハリスという英国人作家(ラジオDJロバート・ハリスとは別人)の作品である。この小説では主人公が非常にめずらしい職業である。水道官(水道管ではない)なのだ。水道官とはローマ時代の水道を管理する技術官僚のことで、この小説では若き水道官のアッティリウスがベスビオ山が噴火する直前のポンペイに赴任し、ポンペイ周辺に水を供給しているアウグスタ水道をめぐって冒険を繰り広げる。

小説で主人公がいわゆる「理系」だとはっきりと分かるものは少ない。そういった意味で「ポンペイの四日間」は少ない小説のひとつだ。本文中にも

土木工学の原理は単純で普遍的、個人の人格とは無関係であり、−−−ローマでもガリアでもカンパーニアでも−−−それがアッティリウスの好きな点だった。
とあるように主人公は神仏・迷信の類を信じない根っからの理系人間として描かれている。その主人公が赴任早々、水道が止まってしまうというトラブルに遭遇し、それを解決すべく奮戦するのである。

ただし、残念なことに物語のサスペンス性はあまり高くない。というのはベスビオ山が噴火し、ポンペイが滅びることは現代の我々には最初から分かっているので、物語は予定調和で最後まで突っ走るという感じがある。

では、何が面白いかというと「アウグスタ水道」に詳しくなれるという点である。西暦79年にすでに現代にも負けない完備した水道があったということ自体が驚きだが、それを維持する技術や社会体制などの記述も最新の研究に基づくもので非常に面白い。そういった意味でこの小説は冒険ものというよりは情報小説の一種である。情報小説が好きならお勧めできる。個人的にはそういう小説も嫌いではないが、もっと冒険ものの比重が大きかった方が楽しめたのにと思わないでもない。
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