飛べ!日本経済〜成長会計で考える〜

[要約]
「右肩上がりの時代は終わった」だとか「日本経済はもう成長しない」だとか「経済成長を追っているうちはまだ日本は中二病なのだ」などという人がいる。しかし、それらの意見は適切ではないし、間違ってもいる。

経済学における新古典派経済成長理論によれば経済成長の源泉は(1)物理的資本*1量の増加、(2)有効労働量の増加、(3)生産性の増加である。これからの日本は(1)と(2)はそれほど増えないかもしれないが、(3)は今後も増えていくはずだし、増えるように努力していくべきだ。それは(3)は「日本人が持つ知恵」そのものだと言うことができるからだ。

「経済成長を追うのをやめるべきだ」という意見は「日本人よ、バカになれ(世界の他の国と比較して)」というに等しい。そのような意見に反対する。

[議論の前提]
1. 話をある程度「長期」の場合に限定する
2. 長期に限定するため、「お金の増加率」は議論に関係なくなる(これを経済学では「貨幣の中立性」という)

[経営の四資源]
筆者は学部生、修士課程ともに物性物理学という物理学の中でも極めてマイナーな分野を学んだ。だから、ある大手通信会社に就職した時には経済に関しても金融に関してもまったくのど素人だった*2。だから、会社の研修に講師としてやってきた「経営コンサルタント」に「経営に必要な三資源というのをご存知ですか?」と聞かれた時、まったく答えられなかった。

コンサルタントはニヤッと笑って言った。「ヒト、モノ、カネと言います」そして、続けた。「最近は、それに加えて技術力や情報を入れることがよくあります」。(1)物理的資本、(2)労働力、(3)技術力(生産性)、(4)お金が重要だと言う話はすでに数年間サラリーマンをしていたので、すぐに理解できた*3

[成長会計〜経済成長の源泉〜]
それから何年か経って、マクロ経済学新古典派経済成長理論を学んだ時にそれを思い出した*4

経済成長理論では経済成長率は大雑把に言って以下のように分解される。

経済成長率=物理的資本成長率+有効労働量成長率+生産性成長率

マクロ経済学ではこの式を成長会計(Growth Accounting)と呼ぶ(もう少しちゃんとした(?)式は「世界で一番簡単な成長会計」(後述)をご参照ください)。

さて、物理的資本とは「生産に用いられる何か」であり、たとえば工場機械などである。また、有効労働量とは「生産に費やされた労力」であり、たとえばサラリーマンが会社に提供する労力である。そして、生産性とは「技術力」であり、人が生産に用いる知識や知恵なども含まれる。

[飛べ!日本経済]
わが国は国土が限られているため物理的資本の増加率はゼロになってしまうかもしれない、今後の人口が少しずつ減っていくから有効労働量の増加率はわずかにマイナスかもしれない(新古典派経済成長理論では均衡状態では資本増加率と有効労働量増加率はゼロに収束すると考えられている)。しかし、知識や知恵は蓄積していくことができる。

「経済成長を追うのをやめるべきだ」という意見は「日本人よ、バカになれ(世界の他の国と比較して)」というに等しい。筆者はそのような意見に反対する。わが国はこれまでも新しいものをどんどんと取り入れて発展してきた。これからもそれを追求すべきだし、可能なことでもある。我々はこの国の全ての人たちが豊かさを享受できるようにこれからも日本経済を成長させていくべきだ。

飛べ!日本経済。

[補足]
1. なお、今回の話は、一財(世の中の財が一種類しかない)の場合を考えているが、これを多財に書き換えても同じ結論が得られる。
2. ここで書いた話は、山形さんの「経済成長は、ぼくたちの努力や成長の総和でしかない。」をはじめとした経済成長に賛成する論者の意見を成長会計で説明しただけに過ぎない。筆者以外の皆さんの方が分かりやすいと思う。
3. 今回の話は比較的「長期」に限っているので、金融政策の話が出てこないが、比較的「短期」の話になれば、いつもの「インフレターゲットを設定して、(短期的な視点から)経済を安定させよ」という話になる。
4. 以下のサイトに今回の話を数式で理解したい人のために「世界で一番簡単な成長会計」という文書をアップロードした。
http://koitiyano.hp.infoseek.co.jp/econ/growthAccounting.pdf

5. 「飛べ!日本経済」という題名は漫画家・尾瀬あきら先生の怪作「飛べ!人類」からいただいた。面白い(といかトラウマになる?)作品なのだが、現在では入手困難のようだ。

[関連リンク集]
もう景気はいいから(404 Blog Not Found)
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50675432.html
経済成長は必要だ!(Bewaad institute)
http://bewaad.com/20061102.html
経済成長は、ぼくたちの努力や成長の総和でしかない。(山形浩生 の「経済のトリセツ」)
http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20061103/p1
「癒し」の経済学とか「複素経済学」とかw(Economic Lovers Live)
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20061102#p1
妄想の「経済成長無用論」(すなふきんの雑感日記)
http://d.hatena.ne.jp/sunafukin99/20061104/1162602928
弾氏の「群盲成長をなでる」を読む(A.R.N [日記])
http://d.hatena.ne.jp/arn/20061104#p3
「経済2.0」とか「複素経済学」とか(インタラクティヴ読書ノート別館の別館)
http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20061104/p1
過剰人口によるひとりごと(BUNTENのヘタレ日記)
http://d.hatena.ne.jp/BUNTEN/20061104
弾さんの経済学理解(cloudyの日記 )
http://cloudy9.blog29.fc2.com/blog-entry-43.html
以上、順不同。見逃しているエントリーがあったらすみません。

[参考文献]
Krugman, P., and R. Wells, (2006), "Economics," Worth Publishing.
D. Romer, (2005), "Advanced Macroeconomics," McGraw-Hill/Irwin.

*1:「工場の機械など生産に使われる物」のこと

*2:今でも詳しいとはとても言えない。

*3:ただし、[議論の前提]に書いたとおり、ある程度「長期」の場合を考えるため、以下では(4)お金のことは考えないことにする。

*4:新古典派経済成長理論を基盤とする現代マクロ経済学は制御理論を基礎としているため、工学系学部を卒業した矢野には非常に理解しやすかった。

経済学をライトに学びたい人にオスス・・・メ?

「管理人は統計学マクロ経済学の研究者。アイドルやアニメなど、扱う話題はエンタメ性が強いが、しっかりとした経済用語で語られている。経済学をライトに学びたい人にオススメ

以上のようにR25に当blogをご紹介いただいたようなのですが、
経済学をライトに学びたい人にオススメ
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とご紹介いただいたと知った時の僕の気持ちは↓

工 エ.ェェ( ゚Д゚;)ェェ.エ 工

急遽、まじめな話を書いちゃいましたよ。
この忙しい時に何をしているんだオレ_| ̄|○

ちなみに本当に真面目に経済学を勉強したい人は(英語が問題ないなら)Krugman, P., and R. Wells, (2006), "Economics," (ASIN:0716767104)はなかなかいい教科書だと思います(まだ三分の一くらいしか読んでませんが、それでも)。

比較対象にもみじ饅頭を置いてみましたw

え?日本語で書かれた経済学の教科書ですか?読んだことがないので・・・