まとめ:「プラクティカル確率論」(経済セミナー連載)が無事に終わったので

経済セミナー『2011年4・5月号』から始まった「プラクティカル確率論」ですが、『2012年2・3月号』で全6回の連載が無事に終了しました。

最後に「どのような意図でこの連載を始めたのか」や「各回はどのようなことを意図して書かれたのか」をまとめておきたいと思います。

[執筆の意図]
経済学部で学ぶ学生の皆さんに

  1. 「確率を学ぶとそれなりに面白そうだ」と思って欲しい
  2. 「確率を学ぶと経済・経済学への理解が進む」ことを理解して欲しい

と考えて執筆しました。

経済学を学ぶ上で確率の知識は重要だと思うのですが、日本の私立大学文系では「数学は不得意」もしくは「数学は嫌い」という学生が少なくありません。そのため、数学の不得意な学生の皆さんが楽しみながら読める確率入門が必要ではないかと思っていました。

さらに確率を学ぶと経済学のモデルを理解するのに役立つという側面があることも見逃せません。しかし、そのような点について配慮した確率の教科書はあまり例がないようです。

この2つの問題点を少しでも解消したいというのが連載執筆の意図です。

[執筆時に気をつけたこと]
毎回の執筆時には

  1. 前半部分はほとんど数学の知識がなくても理解できるように易しく・初歩的な内容を
  2. 後半部分は少し根気のある人でないと読めないように少し難しめの内容を

書くように気をつけました。

これは矢野自身が非常に劣等生で、大学の授業に出ても最初から最後までまったく理解できずに苦しんだことが少なくないため、連載では毎回、前半は「学習する意欲がある学生は誰でも読めるように」書きました。

しかし、よく出来る頭のいい学生の皆さんにはそれでは退屈だと思い、後半は「前半で学んだ知識を応用した少し難しめの内容」になるように心がけました(まあ、その努力がうまくいったかどうかは読者の皆さんのご判断にお任せします)。

[各回執筆の意図]
第1回:確率という名の厄介者に親しむ『2011年4・5月号』

  • この回はタイトル通り「確率に親しんでもらう」ことが主眼です。
  • そのために「確率のインチキな定義」を教えるという通常では考えられないような手段を取りました。
  • ただし、「インチキな定義」は所詮インチキにすぎませんから、そこから出発しながら、最終的にはコルモゴロフの「確率の定義」に到達できるように段階を踏んで説明を進めました。
  • 確率の定義を学ぶと、ファイナンスで用いられる「リスク中立確率」の理解が進むため、後半ではそれを例題に取り上げました。

第2回:確率の定理と離散分布『2011年6・7月号』

  • この回は条件付き確率と離散分布について取り上げました。
  • 特に条件付き確率は確率を学ぶ際の最初の難関です。
  • この回は「タイムマシンで未来に行く」という設定で「(未来の)日本経済が不況である確率はどの程度か」を調べるという例題を用いて条件付き確率について学びました。
  • 後半は確率質量関数と相対度数を学び、それを使ってファイナンスでしばしば問題となる「ファットテール問題」について解説しました。

第3回:分布と確率変数『2011年8・9月号』

  • この回は確率変数と正規分布、期待値、条件付期待値などを取り上げました。
  • 特に正規分布と条件付期待値は少し難しい内容なので、出来る限り直感的に理解できるように説明や例題を工夫しました。
  • 最後の例題は「資産価格とバブル」です。特にここで取り上げた「合理的バブル」は条件付期待値の応用例として非常に面白いので、経済学には興味のない一般の方も読んでいただけると楽しめるかと思います。

第4回:確率変数と漸近理論『2011年10・11月号』

  • この回は大数の法則中心極限定理を中心に解説しました。
  • それを通じて「ランダムであるとはどのようなことか」を実感してもらえるように書きました。
  • ただし、全6回を通じて、この第4回の内容が一番難しかったので、どの程度うまく書けたのかは今もあまり自信がありません。
  • 最後の例題では大数の弱法則と銀行によるリスク分散について取り上げました。

第5回:マルコフ連鎖入門『2011年12・1月号』

  • この回はマルコフ連鎖の基礎・・・です。
  • 毎回、トリッキーな解説が続く本連載ですが、この第5回が最もトリッキーで「マルコフ連鎖の説明をせずにマルコフ連鎖を解説する」という風変わりな内容になっています。
  • 具体的にはマクロ経済学の入門書でよく扱われる「自然失業率のモデルを勉強していくと、マルコフ連鎖が理解できる」というものです。
  • 「第5回全体が例題(経済学への応用問題)」のようになっているので、この回は例題はありません。
  • ちなみにこの第5回と最後の第6回が書いていて一番楽しかったです。というか、「矢野個人の趣味爆発」みたない感じですみません。

第6回:ベイズ推定へようこそ!『2012年2・3月号』

  • この回は「ゾンビ確率」の計算に始まり、ベイズの定理の証明、ベイズ推定(の一番簡単なバージョン)、確率の解釈問題(頻度解釈と主観解釈など)を扱っています。
  • この回も毎度毎度の「2項ツリー」を使った説明なのですが、これをよく理解することがベイズ推定を理解する最初のステップだと個人的には思っています。
  • 最後の例題として「金融政策に関する評判のモデル」を取り上げました。ベイズの定理の経済学への応用として非常に面白いものです。経済学の勉強を始めた10年ほど前に学んで、矢野が非常に感銘を受けたモデルです。
  • ただし、全6回の連載の最後の例題ですので、少し難しめになっています。学部生の中でもガッツのある学生の皆さんは挑戦してみてください。

[サポートサイト]
以下がサポートサイトになっていますので、ご興味のある方はご参照いただければ幸いです。
ラクティカル確率論 https://sites.google.com/site/probkeisemi/

[誤字・脱字・間違え等]
連載の中で誤字・脱字・間違え等を発見された方がおられましたら、koiti.yano@gmail.com までご連絡いただければ幸いです。ご指摘いただいた点につきましては、今後サポートサイトでフォローさせて頂きます。

[最後に]
毎回、風変わりな内容の「確率入門」だったので、先生方の中には「なんじゃこりゃあ!」と怒りを覚えた方も少なくないかもしれません。

矢野は非常に頭が悪い劣等生だったので、確率について理解するのに非常に苦労しました。その苦労の過程で考えた様々な内容が本連載には盛り込まれています。数学の不得意な学生にはこのような風変わりな内容から教えるのも一つの方法ではないかと個人的には考えています。

ただ、それをどのように評価されるのかは読者の皆様のご判断にお任せしたいと思います。