【年末企画】2008年の経済情勢を振り返る(1)〜実体経済と景気動向〜

[お断り]当blogに書かれていることはすべて矢野個人の意見であり、矢野が所属するいかなる組織とも関係ありません。

昔、アルフレッド・マーシャルという経済学者が「経済学者は冷静な頭脳と、しかし温かい心が必要だ」と述べたとか(という矢野は応用統計学者ですが*1)。

景気後退(不況)というものはとても苦痛で、特に最初の被害者は社会的弱者であることが大変に多いので、被害者たちはもちろんのこと多くの心ある人々をも苦しめる訳です。

しかし、いきなり「急激に退行する世界にて」とか「新たな「失われた10年」が始まる」とか、いきなりちょっと扇情的に過ぎるのではないかと矢野は思います。まずはFigures and Facts(データと事実)を確認しましょう。

さて、今年の1月24日に矢野はこういうエントリーを書きました。

[マクロ経済学][統計学] 2006年のピークアウト〜景気ウォッチャー調査にみる「今そこにある危機」〜
[お断り] 当blogに書いてあることはすべて矢野の個人的見解です。
韓リフさんが景気ウォッチャー調査のことが取り上げられていたので、矢野も便乗して少し気になっていることを書きます。

景気ウォッチャー調査のDI(「景気の現状判断(方向性)」)から(1)合計、(2)家計関連の動向、(3)企業関連の動向、(4)雇用の動向をグラフにしてみます。
(注:図は省略[元エントリーを参照のこと])
縦線が二つ引いてありますが、左の縦線が2006年1月、右の縦線が2007年1月です。

で、言いたいことは何かといいますと、
(1) 日本の景気は2006年半ばにはピークアウトし、
(2) 景気減速は2007年初頭には始まったのではないか?

ということです(少なくとも景気の現状判断DIが2006年中にピークアウトしてしまったのは間違いないと思います。去年じゃなくて一昨年)。

外需のことなどいろいろ要素が関係するので、本当に景気減速に入ったのかどうかはもう少し慎重に分析せねばなりませんが・・・
http://d.hatena.ne.jp/koiti_yano/20080124/p1

以上が約12か月前の矢野の認識です。さて、11月までの最新の景気ウォッチャー調査ではどうなっているでしょうか?

「ここ3ヶ月の世界の激変には目を見張るものがある。」というのは大きな誤解で、経済統計を見る限りでは世界の変化(景気減速)は2007年前半から2008年末の約2年間にかけてゆっくりと起こってきたと考える方が妥当です。

それをGDPの実質成長率(原系列の前年同期比)で見るとどうでしょうか?

直近でピークをつけたのは2007年第1四半期(今から約2年前)ですから、こちらを見ても景気の減速は2年かけて徐々に始まったことが分かります(ここ3カ月で急激に変わったわけではありません)。

「2008年の経済情勢を振り返る(2)」では物価動向について取り上げます。

[データ出典]
http://www5.cao.go.jp/keizai3/watcher.html
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe083-2/ritu-jg0832.csv

*1:多分。最近、DSGEと時変係数構造ベクトル自己回帰モデルばかりやっているので、自分でも少しあやしくなってきましたがw