景気は力強いのだろうか?

えーっと、いろいろとコメントしようと思っている内容がたまっているんですが・・・生産性と賃金の関係(山形・池田論争)とか、再利上げとか・・・しかし、今年は出来るかぎり論文数を増やそうと思ってやっているので、なかなか気軽にblogを書く時間がなかったりします。

まあ、あせってもしょうがないので、ひとつずつ出来る範囲内で書いてみます。

まず、2月15日に2006年第4四半期のGDP1次速報値が出たので、その件から。

[景気は力強い?]
実は1次速報が出た直後から新聞やインターネットで「実質GDPは2006年第4四半期(10-12月期)は第3四半期(7-9月期)に比べて1.2%成長した(年率で4.8%成長)。景気は力強い」という報道や意見をよく目にするのですが・・・

10─12月期実質GDPは前期比年率+4.8%、景気回復継続を確認=内閣府

[東京 15日 ロイター] 内閣府が発表した2006年10─12月期国民所得統計1次速報によると、実質国内総生産(GDP)は前期比プラス1.2%、年率換算プラス4.8%となり、昨年7―9月期の前期比プラス0.1%に比べ、成長率は高まった。(中略)
 市場からは「(GDP)は前期比プラス1.2%と市場予測を上回った。4─6月期、7─9月期と弱かったが、きょう発表の指標で日本経済が成長軌道に回復したと確認されたと言える。本格的な回復を示したことから、金融政策の転換を実施しても問題はなく、利上げを踏みとどまることはないとみられる」(カリヨン証券・チーフエコノミスト 加藤進氏)など、日銀の2月利上げの追い風になるとの見方が多く聞かれた。

http://www.asahi.com/business/reuters/RTR200702150057.html

コメントを述べさせていただくならば・・・正直に言って上記のような意見は不適切なものだと思います。

で、何が不適切なのかを今回はご説明しようと思います。

[失敗する季節調節]
よく知られた事実その1:第4四半期(10月-12月)の実質GDP(原系列)はいつも高めに出ることが古くから知られている
よく知られた事実その2:しかも、四半期実質GDP(原系列)を季節調節してもその「高めに出る」という性質は必ずしも修正されない

「やの、てめー嘘つくんじゃねーよ」と思ったそこのあなた!証拠をお見せしましょうw

データソース:実質季節調整系列
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe064/gaku-jk0641.csv

このグラフは季節調整済み実質GDP(1年に換算)を第1四半期(1-3月期)、第2四半期(4-6月期)、第3四半期(7-9期)、第4四半期(10-12月期)それぞれ別に取り出したものです。水色の線が第4四半期なのですが、多くの場合水色の線が一番上に来ていることが分かると思います。

実は季節調整というのはとても難しい分野です。なぜならば、有限の限られたデータから「真の値(季節性が完全に除かれた値)」を算出することはとても難しいからです。特にマクロ経済のデータはデータ数が少ないので、どんなに優れた季節調整法を用いても常に失敗する可能性があります。

上のグラフを見れば、「第4四半期(10月-12月)のGDPはいつも高めに出る」という性質を完全に打ち消すことは出来ていませんから、2006年第3四半期と2006年第4四半期の実質GDPを単純に比べて成長率を論じるのは疑問があります。

[少しだけ余談]
詳しい人の中には「やの、おまえ、間違って原系列持ってきたんじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。もちろんそんなことはありません。実質原系列のグラフだともっとはっきりと第4四半期(9-12月期)が高めに出ることが分かります。

データソース:実質原系列
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe064/gaku-jg0641.csv

[とりあえずの結論]
という訳で2006年第3四半期と2006年第4四半期の実質GDPを比べて成長率を論じたり「景気は力強い」などと結論づけるのはのは不適切だと言えます。

[では何を見るべきか?]
で、「結局こういった問題がある場合にはどうすべきか」なんですが、それに対する古くから知られている単純な方法があります。それは「前年同期比」を使うことです(たとえば2005年第4四半期と2006年第4四半期で成長率を見る)。

データソース実質原系列(前年同期比):http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe064/ritu-jg0641.csv

このグラフから少なくとも二つのことが分かります。
1. 消費の成長率の落ち込みが著しい(2006年第4四半期も大きな改善は見られなかった)
2. 実質GDPの成長率もITバブルの2000年、2004年頃と比べると低い(ITバブルや2004年頃は3%以上の成長をしていたが、それに比べると低い)

矢野には「景気は力強い」とか「本格的に成長は回復した」などという意見とは程遠い結果のように思われてなりません。

景気は本当に力強いと思いますか?

[補足] 季節調整済GDP(前期比)
Kumakuma1967さんから観測誤差についてご指摘があったので、季節調整済GDP(前期比)のグラフも載せておきます。